公益財団法人 アイスタイル芸術スポーツ振興財団

RESULT REPORT

2022年 第6回現代芸術助成川田 知志

愛知県瀬戸市で北川民次のリサーチと愛知県陶磁美術館企画展『ホモ・ファーベルの断片-人とものづくりの未来-』の作品制作

  • プロフィール写真
  • 川田 知志 Satoshi Kawata

    公式サイトhttps://kawatasatoshi.tumblr.com

    2013年 京都市立芸術大学大学院絵画専攻油画 修了

    2018
    「拆(倒)」A4 ART MUSEUM,中国成都
    「Open Room」ARTCOURTGALLERY,大阪、
    「VOCA2018」上野の森美術館,東京、
    「織り目の在りか 現代美術 in 一宮」一宮市役所庁舎内,愛知
    2019
    「確実な晴れ。」浄土複合ウィンドウギャラリー StandAlone,京都、
    「セレブレーション-日本ポーランド現代美術展-」京都,ポズナン,シュチェチン、
    「街と、その不確かな壁と…。」あまらぶアートラボ,尼崎
    2020
    「Tokyo Midtown Award2020」(Tokyo Midtown,東京)、
    「SBJECT」(ホテルアンテルーム,京都)
    「500m美術館vol.32 「第8回札幌500m美術館賞 入選展」札幌
    2021
    「CADAN×ISETAN MEN’S : Seasonal Cohabit~Winter & Spring~」(伊勢丹新宿店メンズ館,東京
    「Slow Culture」 (ギャラリー@KCUA,京都)
    「旅中の天」(RCホテル,京都)
    2022
    「京都市立芸術大学資料館収蔵品活用展”うつしのまなざし”」 (ギャラリー@KCUA,京都)
    「ホモ・ファーベルの断片―人とものづくりの未来―」(愛知県陶磁美術館,愛知)
    「彼方からの手紙」(アートコートギャラリー,大阪)

助成対象活動名

愛知県瀬戸市で北川民次のリサーチと
愛知県陶磁美術館企画展『ホモ・ファーベルの断片-人とものづくりの未来-』の陶壁作品制作

撮影:横山将基 画像提供:愛知県陶磁美術館

撮影:横山将基 画像提供:愛知県陶磁美術館

撮影:横山将基 画像提供:愛知県陶磁美術館

助成活動の成果

 今回、愛知県陶磁美術館『ホモ・ファーベルの断片-人とものづくりの未来-』で私の役割は、展覧会第3章にあたる「場-記憶/風景-について」において地域性と密接に関わる歴史的な文脈や原風景への働きかけとして、北川民次の陶壁画と足跡を辿り、陶で壁画を制作するところありました。そしてグローバル化の加速によって消失するローカリティの観点で、その土地の素材や歴史をリサーチし、現地の職人と協働した制作を展開、それらを通じて、未来志向で瀬戸市の原風景を再構築するだけでなく、公共空間における壁画の役割と未来へ向けたあり方を探る目的もありました。

 2022年3月中頃、リサーチする市内の場所選びは、北川民次のスタジオ近くにある高台から眺めた景色を軸にしました。鮮やかな外装の新興住宅の隙間から飛び出た煙突や陶片を用いた垣根が焼き物の街ならではで、とても印象的でした。街中を少し歩くとときどき広い空き地に出会いました。やけに広いその場所がなんだったのか気になりました。グーグルストリートビューでの過去を遡れる機能で検索すると、製陶所跡地であることがわかりました。ほかにもそこと同じような場所は瀬戸の街にたくさんありました。新興住宅の隙間に廃業した窯元、そこが更地になってまた新しい住宅が建ち並ぶ、それが今の瀬戸の風景を作っていることに気づきました。普段の制作で日本の郊外の均質化した街並みを登場させることが多いため、現在進行形で郊外化する風景はとても興味深い様子でした。また、かつて窯業地で働く人々や街の活気を題材にした北川がもし今の瀬戸で暮らしていたとしたら、いったい何を絵にしたかについて思いをめぐらせ、強い関心を持ちました。そこで彼の作品”瀬戸風景”にちなみ、”瀬戸風景2022”というタイトルの壁画を思いつきました。

 瀬戸市のリサーチと並行しながら制作協力先も探しました。この時すでに2022年3月ごろ、7月の展示までにタイル約2,500枚に絵付けを施し焼き上げなければいけません。そのために一度にたくさんのタイルが焼ける窯と広い絵付け作業スペースが必要でした。市内では制作時間と広さ、焼き方の面で条件を満たす場所がありませんでした。粘土から成形する湿式タイルではなく高圧のプレス機で成形する乾式タイル、蓋つきの電気窯ではなくトンネル窯で。乾燥時間と焼成を効率的に行わないといけません。う曲折を経て、瀬戸市の隣町、岐阜県多治見市で様々なオリジナルタイル制作を手掛ける企業、株式会社エクシィズと杉浦製陶株式会社の協力をいただけることになりました。多治見市内には意匠研究所や多くのタイルメーカー、様々な窯業関係の会社があります。企業間のネットワークが構築されて垣根を越えた情報交換がされていました。短い期間で作品化に最適な方法を選択し、制作を実現するにあたり、このネットワークにかなり助けられました。

 制作法は、主に粘土を盛り付ける”いっちん技法”と筆を使って釉薬を垂らし込む”だみこみ”による絵付け行いました。釉薬の調合や色変化、窯のカロリー計算などを相談しながら、トンネル窯で焼成しました。また絵の具の選択や使用法については瀬戸市内の材料店にも相談しました。

 今回の作品は瀬戸市と多治見市から成り立っています。陶壁画には、地場産業が街全体に広がり、暮らしを超えた素材との関わりや陶を用いた壁画の制作に公共の空間における壁画の役割を再考するとともに土地に根差した素材との密な対話になりました。北川民次が加藤霞仙のもとで陶壁画を作っていたように、現代では、産業化と企業間での連携に特化した多治見市と長年続く瀬戸市の材料店の探求がまた一つ現代の陶壁画制作の在り方かもしれません。そして、新しいものに限らず日本の伝統的な装飾や意匠をいかにして暮らしの中へ組み込めるか試行錯誤する窯業関係者の姿勢に、美術と社会の関わりの地平を見出しました。


■制作レポート
株式会社エクシィズHP瀬戸風景2022 (川田知志 作)

対象作品展示情報

ホモ・ファーベルの断片-人とものづくりの未来-

公式サイトhttps://www.pref.aichi.jp/touji/exhibition/2022/t_homofaber/index.html

開催期間 2022/07/16(土)〜10/02(日)
09:30 〜17:00 
会場 愛知県陶磁美術館
愛知県瀬戸市南山口町234番地地図

[プロフィール写真] 画像提供:株式会社エクシィズ

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