公益財団法人 アイスタイル芸術スポーツ振興財団

RESULT REPORT

2020年 第4回現代芸術助成久保 ガエタン

久保ガエタン展 ―天の虫―

  • プロフィール写真
  • 久保 ガエタン Gaetan Kubo

    公式サイトhttps://gaetankubo.com//

    1988年 東京都生まれ。
    2013年 東京藝術大学大学院美術研究科修了。
    2017年 公益財団法人ポーラ美術振興財団在外研修員としてフランスにて研修。
    2018年 京都市芸術文化特別奨励者。糺の森会員。
    2021年 TERRADA ART AWARD 2021 真鍋 大度 賞受賞。

助成対象活動名

久保ガエタン展 ―天の虫―

インスタレーションビュー 撮影:若林勇人

宇宙 日本 世田谷 ぼく 蚕 ウィルス

流転王冠蟲図

「全ての贈り物」映像カットより

「全ての贈り物」映像カットより

「全ての贈り物」映像カットより
「全ての贈り物」映像カットより
「全ての贈り物」映像カットより
「全ての贈り物」映像カットより
「全ての贈り物」映像カットより
「全ての贈り物」映像カットより
「全ての贈り物」映像カットより

助成活動の成果

展覧会の準備と作品制作は、助成申請時にはなかったコロナ禍において行われたため、本来の目標とは違った形で進められた。一方、それはコロナ禍でしかできないことを挑戦する機会ともなった。具体的には「外出自粛の要請」によって遠方への調査・撮影などが不可能となったことで、「室内観察」をベースにした作品制作を行えたことである。ニュートンはペスト禍に自由な奨学金を得たことによって故郷へと疎開し、自由に思索できたことが後の「三大業績」を導いたとされ、それは「創造的休暇」と呼ばれている。本展も同様、室内で蚕を飼うことによる観察・撮影・編集および制作に時間と予算をかけるという、普段であればできなかったことが本助成によって得られ、従来では生み出せない様な新天地の作品を制作することができた。

メインの作品となる映像作品は、養蚕農家から譲り受けた蚕の幼虫の観察から始まる。幼い頃小学校で育てた蚕の記憶から、その生き物はどこから派生したのか思索していく。幼虫が蛹化すると、映像は一変し、日本の養蚕神話へと切り替わる。その神話が、後のUSO(未確認潜水物体)の瓦版記録として実しやかに語られている「うつろ船」を元に作られたものではないかといった民俗学的考察を紹介し、神話が記録(たとえそれが虚構であっても)を生み出してしまう話へと続く。話は近代へと繋がり、フランスでの蚕のパンデミックが、日本の近代化へと結びついた鍵となったこと、蚕による遺伝子工学の話へと発展してく。蚕にとって最も危険なウィルスの一つである、バキュロウィルスは、新型コロナウィルスの抗体となる目的のスパイクタンパク質を生成することができる。そのことから、蚕にバキュロウィルスを挿入し、感染させることで目的タンパク質を生成した新型コロナウイルスワクチンの研究へとつながっていく。映像は再び一変し、蛹が羽化するところから始まる。バキュロウィルスが節足動物にしか感染をしないため、人間には無害であるということや、人間こそ地球の未開の地を破壊/開拓して拡大していかなければ生きていけない存在であることから「ウィルス」とは誰にとって定義されるかを荘子が見た胡蝶の夢の様に万物斉同を問い出す。うつろ船の女性が持っていた謎の箱の中身に蚕が入っていたのか、あるいはそれはパンドラの箱の中に入っていた「災いと希望」(全ての贈り物)だったのか、その箱の中身に思いを馳せながら、映像の蚕は交配後産卵し、次の世代へと変わっていくことで再び幼虫の映像となりループしていく。

発表当時、国内では0.3%以下の接種率の新型コロナウィルスワクチンは、今や一度目の接種経験者が80%を超える。一方、変異株に対応するユニバーサルワクチンの開発や、抗体価の維持など多くの課題が残されており、ワクチンによる集団免疫は依然とパンデミック終息解決の糸口を見出せていない。果たして蚕という人工生物が吐き出す糸が、我々を救う孔を通すことができるソレとなるのか。改めて考察する機会を得たい。

対象作品展示情報

久保ガエタン展 ―天の虫―

公式サイトhttps://www.setagayaartmuseum.or.jp/event/detail.php?id=ev00974

開催期間 2021/03/16(火)〜03/28(日)
会場 世田谷美術館
世田谷区砧公園1-2地図

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