RESULT REPORT
美的身体のメタモルフォーゼ 第1回現代芸術助成神楽岡 久美
美的身体のメタモルフォーゼ
-
神楽岡 久美 KAGURAOKA kumi
公式サイトhttp://www.kumi-kaguraoka.com/
1986年 東京都生まれ 2012年 武蔵野美術大学大学院 造形研究科 デザイン専攻 空間演出デザインコース 修了 2012年 玩具企画デザイン会社、株式会社レイアップ 商品企画部 入社 2014年 玩具・雑貨の企画、デザイン、展示空間ディレクターをつとめたのち退職 2015年 作家として活動開始
助成対象活動名
美的身体のメタモルフォーゼ
助成活動の成果
私は「身体とは世界と対話するためのツールである。」をステートメントに、作品の制作を行なっています。
そして現在制作しているシリーズ作品「美的身体のメタモルフォーゼ」。これは人類誕生の歴史から、現在そして未来の美的価値から形成される身体を推測し、その美的身体を形成する装置の制作です。
人間社会において知力、体力、財力に次ぐ4番目の価値として「美力」が挙げられます。ヘレネ、クレオパトラ、楊貴妃など美の力によって歴史に名を残した女性も多く、クレオパトラに至っては哲学者パスカルが「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら、世界の歴史が変わっていたかも知れない」という言葉まで残しています。
この「美力」を追求するため、ファッションが生まれ、化粧が一般化し、美容整形さえも普通に認識されるようになりました。然し、ファッションや化粧は皮膚の拡張であり、美容整形は皮膚下にメスを入れた一時的加工である「身体の装飾」 に過ぎません。そこで、私は「身体の装飾」とは別の「美意識による身体への行為」として「身体の拘束」に着目しました。「身体の拘束」とは、中国の纏足、西洋のコルセット、首長族の真鍮リングによる長い首や、各大陸で発見されている、頭の先端が高く伸びた人工頭蓋変形などのように、外的負荷をかけ骨格をも変形させる美的身体へのメタモルフォーゼ(変態)です。歴史上には時代や様々な国の文化で見られる美意識や価値観によって本来の形状を無視し、変体せざるを得ない身体がいくつも誕生していました。
そして「拘束」は時間をかけて骨格を変形させるためムーブメントとしても息が長く現代においても、理想のカタチにフォルムを整える下着、先がすぼまったカタチの靴やピンヒールは多く女性の足を外反母趾にするなど、「身体への拘束」 は廃れることなく今に続いているのです。骨格を変えることは時代によっては命がけであり、時間もかかり面倒なはずなのに、あえてそれを選ぶ様から人間の機微のようなものを感じ、外的負荷をかける拘束にフォーカスをあて、ギプス(装身具)として制作をしています。
黒いボディーのギプスは鼻を高くするギプスや猫背を防止するギプス、またモデルのように美しく歩くためのギプスと、 現代の美意識を具現化したものです。これらは全てウェアラブルで、日本人の平均体型の女性なら誰でも身につけることができ、ギプスとして機能します。
そして現在進行中の制作が、未来の美的身体を形成するギプスです。
未来といっても、先のことは誰もわかりません。しかしリサーチをもとに根拠のある仮説を立てることから新たな価値や可能性を見出すことはできると考えます。未來の美意識がどんなものか仮説をたてるために条件を一つずつ考えていきました。
まずは環境です。環境の軸を地球上としました。1000年ほど先の未来。宇宙移住も可能となっているでしょう。重力のあるないでは価値観も異なり、環境によって異なる食事は大きく身体に影響を与えます。そして1000年後の地球上の環境は温暖化が進み、乾燥し、砂漠地帯が増えると考えられています。
そしてもう一つ、そんな環境の厳しい未来の地球上で「美がどういった位置づけにあるか」「何が美しいとされているか」 という仮説を立てることです。
私は「生命体としての強さ」が未来の美的価値の1つとして生まれるのではないかと考えました。
その理由は人類の進化の歴史にあります。
アフリカ大陸から誕生した人類の祖先は各大陸へと渡って行きました。それは人工密により弱いものが群れから追い出され、致し方なく厳しい環境の地へと渡って行った。という見解があります。そんな中、ホモ・サピエンスの祖先と考えられる種族ホモ・エレクトスが、言語が生まれる前にハンドアックスという石でできた道具をただの石の状態で使っていたものから徐々に左右対称の安定した美しい涙形に加工しはじめたと考えられています。そして、それを作れるオスがメスへのアピールに使っていたのではないかという説もあります。このように弱い種族からパイオニアが生まれ、それにより人類が絶滅せず進化していったのではないかと考えられています。つまり、生きようとする強さから美が生まれたとも考えられるのではないでしょうか。
【未来の美的身体】
1000年後の地球上は温暖化が進み、そんな環境で生命体として強い美的身体は、平均身長180cm、顔は小顔で手足は細長くスレンダーな体系があげられると考えました。このモデルは北アフリカ付近乾燥地帯に住むディンカ族をモデルにしています。彼らは世界で最も平均身長が高く、その種族からスーパーモデルやバスケット選手が生まれています。また細長い身体フォルムは表対面積が広く乾燥地帯でも体温が保つことができ、厳しい環境でも生命体として強く生き抜く身体だと考えられます。
このことから、未来の美的価値に沿ったボディーフォルム(Beauty Model)が全体的にディンカ族のように細長く引き締まったフォルムと仮定すると、日本人女性の平均体型を全体的に縦に引き延ばす必要があることがわかりました。そこで未来の美的価値に向けたギプスの機能は引っ張る力を駆使したもの「Extended bone」としました。これを活用し具現化した未来の身体を形成するギプスとして「Extended finger」指と腕を細長くするギプス。「Plaster cast to shape theneck」首を細長くするギプス。「Prima legs」足を究極の爪先立ちにし、ストレートレッグを形成するギプスを制作しました。
森から出てきた猿が厳しい環境の地へと飛び出し、人へと進化してきたように、未来に向けて人類は新たな技術と素材を手に今までにない美的価値を生み出していくでしょう。
時代が進むにつれテクノロジーは進化し変わっていき私たち人間も多様化していく中で変わらない美への憧れと追求は生きようとする人間の強さであり、その滑稽な姿こそ人らしさなのではないかとリサーチをしていく中で感じました。
最後に、ステートメントやコンセプトの軸となる「身体」とは、誰しもが持ち共有し得るものです。そしてそれはアートだけでなく、デザインや科学、歴史や文化などの側面からもアプローチが可能なものです。この制作がアートの領域を越え、新たな未来につながるクリエイションとなり、常識にとらわれることなく、今ある価値観を変える可能性を内包していると信じています。
受賞歴
2008年 | 「装苑」第83回装苑賞 入選 |
---|---|
2012年 | 武蔵野美術大学院 卒業制作優秀賞 受賞 |
2015年 | 「SICF16」グランプリ 受賞 |
2019年 | 「京都大学ロンドン大学ゴールドスミス校主催 アートサイエンス国際シンポジウム ーArt Innovation展 2019」山峰潤也賞 受賞 |
メディア掲載
2015年 | 広報誌「SPIRAL PAPER no.140」特集 |
---|---|
2016年 | 雑誌「美術の窓6 ー新人大図鑑 2016ー」掲載 |
2018年 | YKK AP株式会社 PR誌「Neighbor」特集 テレビ朝日「Design code~デザイン・コード #231」特集 |
作品提供
2009年 | イベント「WINTER MARKET TOKYO CET AREA COLLECTION ーHOME PARTYー」作品提供 |
---|---|
2010年 | イベント「六本木アートナイト 津村耕佑による星空傘」星空傘制作・作品提供 |
2015年 | 広報誌「SPIRAL PAPER no.140」特集・表紙、裏表紙等に作品提供 |
企画・制作協力
2016〜2010年 | 野老朝雄氏の制作協力 |
---|---|
2008年 | 映画「彼岸島」衣装制作 舞台「から騒ぎ」(日欧舞台芸術)ブラジル公演 2009 衣装制作 舞台「ペリクリーズ」(日欧舞台芸術)海外公演2010 衣装制作 舞台「ヴェニスの商人」(日欧舞台芸術)ロンドン、イスタンブール、日本公演 衣装・舞台美術制作 十和田市「sakiori-bu」(十和田市現代美術館、青森)企画 裂織ワークショップ(十和田市現代美術館、青森)企画 |
主な展覧会(個展)
2015年 | 「光を摘む」spiral、東京 |
---|---|
2016年 | 「光を摘む ー光の記録ー 」BRÜCKE、東京 |
2017年 | 身体と世界の対話 ーvol.1 Dialogue between the Body and the World(2015-2016)ー」T-Art Gallery、東京 |
2019年 | 「KUMI KAGURAOKA solo Exhibition Study of Metamorphose.」FabCafe Tokyo、東京 「Metamorphosis to a beautiful body. KUMI KAGURAOKA solo Exhibition.」西武渋谷店 東京 |
主な展覧会(グループ展)
2007年 | 「”r u shinbi ?!”」グループ展/アートギャラリー&ショップ キアン、東京 |
---|---|
2009年 | 「津村耕佑氏キュレーション DREAM CONSCIOUS かたちになりかけた夢」YUKA CONTEMPORARY、東京 「Sozo Age」グループ展示/十和田市現代美術館、青森 |
2015年 | 「SICF16(SPIRAL INDEPENDENT CREATORS FESTIVAL16)」spiral、東京 「BankART Artist in Residence OPEN STUDIO 2015」グループ展示 BankART1929、神奈川 「シブヤスタイル vol.9」西武渋谷店 オルタナティブスペース、東京 |
2016年 | 「SICF16 WINNERS EXHIBITION」spiral、東京 |
2017年 | 「シブヤスタイル vol.11」西武渋谷店、東京 |
2018年 | 「身体と世界の対話 vol.2」ワコールスタディホール京都 ギャラリー、京都 |
2019年 | 「京都大学ロンドン大学ゴールドスミス校主催 アートサイエンス国際シンポジウム -Art Innovation展 2019」京都大学 |