公益財団法人 アイスタイル芸術スポーツ振興財団

RESULT REPORT

2021年 第5回現代芸術助成Elena Tutatchikova

北海道・知床半島(斜里町)でのリサーチ・作品制作及び展覧会『Old Paths / 知床の古道を歩く』

  • プロフィール写真
  • Elena Tutatchikova エレナ・トゥタッチコワ

    公式サイトhttp://elenatutatchikova.com/

    1984年、ロシア、モスクワ生まれ。京都市在住。
    人間の風景認識や物語創造、歩行と想像力の関係に関心を抱く。さまざまな土地で、歩き、人とかかわりながら、土地に秘めた物語を探り、映像、写真、文章、ドローイングなどで表現する。作品制作、執筆活動を行う一方で、「歩行」という世界の道づくりを表現方法としてとらえ、ウォーキングや地図作りのイベントを行う。
    モスクワでクラシック音楽や日本の文学を学んだ後、2012年より日本へ渡る。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現領域博士後期課程修了。博士(美術)。
    単著(作品集)に『林檎が木から落ちるとき、音が生まれる』(torch press、2016年)がある。近年の主な個展に「Days With the Wind | 風の日は島を歩く」高松アーティスト·イン·レジデンス2020(2021年、女木島、香川)、「道は半島をゆく」(2018年、知床半島、北海道)、「On Teto’s Trail」Gallery Trax(2017年、山梨)
    グループ展に「Flower of Life 生命の花」(2022年、ヴァンジ彫刻庭園美術館)、「新しいエコロジーとアート」(2022年、東京芸術大学大学美術館)、「FACES」SCAI PIRAMIDE(2021年、東京)、「Land and Beyond | 大地の声をたどる」ポーラ ミュージアム アネックス(2021年、東京)、「茨城県北芸術祭」(2016年)などがある。

助成対象活動名

北海道・知床半島(斜里町)でのリサーチ・作品制作及び展覧会『Old Paths / 知床の古道を歩く』

seeds and spring tide frame

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ヒミツキチこひつじ展

助成活動の成果

知床半島での活動は2014年から続けてきたが、2021年一年間の主なテーマを「知床半島の道作り」と考え、北海道斜里町内で開拓時代から残る古道の痕跡を地元の人々と一緒に辿り、調査し、資料、映像作品、写真作品などに残した。

特に、映像作品「たねと大潮」では、斜里町朱円地区在住の農家、羽田野是さん(当時89歳)に取材し出演してもらい、明治後期から斜里町における道作り、地図作りや旧道の痕跡について語ってもらった。羽田野さんは、祖父が明治後期に最初の開拓民の一人として岐阜から斜里町峰浜地区に移住し、父の代から家族が近くの朱円地区に住む、代々の人の営みによって変化してきたこの土地の貴重な記憶を丁寧に集めてきた農家であり、郷土史家である。彼は、日本で自生しないとされてきた灌木、カムチャッカナニワズを斜里町に発見したナチュラリストでもある。このカムチャッカナニワズを見つけたのも、2008年春に一人でオホーツク海沿いの森にある古道を辿るときだった。羽田野さんと一緒にカムチャッカナニワズを探しに行き、咲き始めたそれらの小さな株を、羽田野さんの話とともに映像作品に映した。

この映像作品「たねと大潮」を、POLA MUSEUM ANNEX(東京)で開催した展覧会「Land and Beyond」(2021.7.21-8.29)で初上映したあと、10月、斜里町ウトロにある知床自然センターでのトークイベントの時に上映し、3月斜里町内に新しくオープンしたギャラリー兼カフェ「ヒミツキチこひつじ」での個展で展示し、多くの斜里町民の方に鑑賞してもらった。

この一年間は、映像作品のほか、写真作品やドローイング、知床の流氷をモテーフにした陶芸作品などを制作し、その一部を「ヒミツキチこひつじ」での個展で発表した。

他者とともに風景を体験し、自然と人間が共存する場所としての知床の意味を考える「シレトコ·ウォーキング·プロジェクト」を2017年から不定期に開催してきたが、この一年の間、「知床半島の道作り」をテーマにしたプロジェクトとして、知床の川、海、森、そして旧道を辿るウォーキングイベントを数回開催した。

2021年春からの一年間は、知床半島の様々な道を体験し、調査·作品制作を行い、知床半島やそこで暮らす人々との関係をさらに深めることができたと考える。人々の言葉を通してその土地の記憶を残し伝える作業の大切さを改めて認識した。植物や動物、水や石、木や森、命があるものやないとされるものの全てに名前を与えるのが人間だが、人間の言葉を通して、それらの全てのものはまた物語を与えてくれる。知床の地は私にとって、そんな物語に溢れる場所だ。

今後の大きな目標としては、これらの物語や地図、制作してきた写真、ドローイング、セラミックの作品などを一冊の作品集にまとめたいと考える。また、今後も知床半島を歩くプロジェクトを継続し、2022年もイベントを開催したい。

人間と自然の関係、生命、共存のことを考えるプロジェクトとして、今後も知床での制作を続ける。

対象イベント情報

Shiretoko Walking Project (シレトコ・ウォーキング・プロジェクト)

Instagramhttps://www.instagram.com/shiretokowalkingproject/

開催期間 「斜里川の声をきく」 2021/05/01(土)
「森と川と海とその間〜二つのウォーク」 2021/10/16(土)〜10/17(日)
会場 知床自然センター含む知床半島内複数会場

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