公益財団法人 アイスタイル芸術スポーツ振興財団

RESULT REPORT

2020年 第4回現代芸術助成宇多村 英恵

太平洋と日本最古の地層をテーマとした、パフォーマンスを含む映像インスタレーション作品の制作

  •                                  プロフィール写真
  • 宇多村 英恵 Hanae Utamura

    公式サイトhttps://www.hanaeutamura.com/

    2004 年 ロンドン大学 ゴールドスミスカレッジ、ファインアート学科卒業
    2010年 ロンドン芸術大学大学院チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ、ファインアート科修了
    2014年 Akademie Schloss Solitude ヴィジュアル・アート・フェローシップ、シュトゥットガルト、ドイツ
    2015年 ポーラ美術振興財団の在外研修員として、ドイツ、ベルリンにあるKünstlerhaus Bethanienのレジデンスプログラムにて滞在制作。
    2018年 資生堂アートエッグ賞 受賞
    2018年 文化庁新進芸術家海外研修制度の在外研修員、およびニューヨーク大学ギャラティン校の客員研究員としてニューヨークに滞在

    グローバルな視点から「近代」について考察し、国や人種、非人間、異なる社会的立場などを超えて、個人と他者が対峙できる空間を生み出すことを目指し活動を行う。

助成対象活動名

パフォーマンスとしての構造的映像制作の研究

構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」
構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」

助成活動の成果

■構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」

国際芸術センター青森(ACAC)での2019年の秋のレジデンス中に撮影したパフォーマンス・ワークショップや青森県内各所、そして北海道の幌延にある高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発を行う幌延深地層研究センターで撮影した映像をもとに、構造的パフォーマンス映像作品「湧き水と断層と身体」を編集、制作した。

映像作品は第一部、第二部という構成からなり、第一部では、かつて原子力エネルギーのエンジニアリングに従事した或る科学者の回顧録を、娘である作者が朗読する音声が重ねられる。

そこでは、回顧録の「わたし」がどのように動物や自然と共に育ち、自然界の現象に惹かれていき、そして高度経済成長期時代の日本の大きなうねりの中で、原子力を専門に選んだ軌跡が朗読される。全ての問題が複雑に絡み合う現代社会。この作品内では、人間、自然、動物は、等しく表象が置換される。父である「わたし」は木として表象され、家族という血縁で繋がったユニットを、地球上の異種同士でも繋げてみる。そして、人間の一生という時間軸が、何億年という地球の時間軸に重ねられていく。

幼少期に「わたし」が見たヤギの出産シーンは、青森県にある約28000年前の針葉樹が地層に保存されている出来島最終氷期埋没林の地層と重ねられ、ヤギが出産を終え胎盤を食べ尽くすくだりは、雨の滴が滴る埋没林の赤茶色のシアノバクテリアの地層の映像と重ねられる。シアノバクテリアは、30〜25億年前に地球上で初めて光合成をし、酸素を地球上に送り出した。

回顧録の「わたし」としての木は、木の枝から流れるシルバーのリボンにより、光や、見えない風の流れが表象される。シルバーのリボンは、回顧録の中で、実験の道具になったりする。第一部の最後では、作者がいつ割れるかわからない水氷の上を歩きながら、作者の方向へとシルバーのリボンをたなびかせる木と出会い、第一部が終わる。

青森の八甲田の雪解け水が湧き出す、田代平のグダリ沼の湧き水のシーンは、私たち人類の祖先から連綿と続く生命の記憶の放出であり、地殻の変動によりできた断層面を辿って放出する循環する水、主体の再来である。

そしてこの作品は、制作中に母となったばかりの作者が、幼少期の父の回顧録を朗読する行為によって語られる。

いっぽう、発話されている声と、語っている主体の差により、自ずとジェンダーにおける差異の歴史も立ち上がる。

朗読は、地球という何億年もの生命の進化を辿る胎児、そして、個人、家族、そして国家の記憶は地続きとなり、近代がもたらした「個人」という概念を乗り越える、新しい主体を想像するパフォーマンスの行為である。

第二部は幌延深地層研究センターの研究が進む地下で、人間が存在しない過去、未来が交差する時空間になり、主体としての人間はいない。語る主体は、機械、テクノロジー、地層などの複数の「他者」となる。言葉も、英語の字幕のみとなり、発話される声は消える。

「Who is at fault?」という字幕中のFaultは、断層という意味と、責任の所在という意味の、ダブル・ミーニングとして作品中で用いられる。人間の採掘作業により歪められた地層の断層面が地響きの唸りと共に動いていく。それは、将来起こるかもしれない人間の活動による地震も喚起させる。

映像作品「湧き水と断層と身体」は、ドイツ、デュッセルドルフにあるbasedonartギャラリーの「Resonances of DiStances」という展覧会シリーズのオンライン・スクリーニングで2021年に発表され、その後ロシア、モスクワのトレチャコフ美術館併設のTriumphギャラリーで開催された「Living Matter」展、また、台湾、台中の国立台湾美術館で開催された「アジアン・アート・ビエンナーレ2021」で展示され、最近ではニューヨークのクィーンズ・ミュージアムの「Futures, Narratives, and Networks」というイベントでもスクリーニングされた。

対象作品展示情報

アジアン・アート・ビエンナーレ2021

開催期間 2021/10/30(土)〜2022/03/06(日)
09:00 〜17:00 
会場 国立台湾美術館 (台湾・台中)

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