公益財団法人 アイスタイル芸術スポーツ振興財団

RESULT REPORT

2019年 第3回現代芸術助成ホコリ・コンピューティング

アーティストとエンジニアのコラボレーションによるAI時代における生命を問い直す現代アート作品の制作

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  • ホコリ・コンピューティング

    公式サイト https://motion-gallery.net/projects/hokori_computing

    5名からなるメンバーは、互いの年齢も、活動拠点も、学んできた分野も全く異なる背景を持っていたにも関わらず、「ホコリ」という奥深い素材に惹かれ、純粋に「ホコリが生きている様に見せたい!」という目的を掲げて仲間となりました。ホコリという未知の存在と、それを動かす手段として使う「静電気」に対して、メンバー全員が専門外であり未開拓の分野であるため、完全に手探りの状態で、少しずつ理解しては何度も失敗を重ね、挫折しそうになった事が何度もありましたが、初めてホコリが動いた日は全員で歓声を上げたほどです。

ホコリ・コンピューティングメンバー

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  • 石川 達哉 Tatsuya Ishikawa

    公式サイト http://kemushiboy.com/works.html

    エンジニア、アーティスト。高校から映像を、大学からプログラムを学び始めて現在に至る。東京芸術大学 大学院映像研究科 メディア映像専攻 修了

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  • 斎藤 帆奈 Hanna Saito

    公式サイト https://www.hannasaito.com/

    アーティスト。ガラス造形や、生物、有機物等を用いて作品を制作している。主なテーマは、私たち自身がその一部でありつつ、観測者でもあるものとして「自然」や「生命」を表現すること。

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  • ノガミ カツキ Katsuki Nogami

    公式サイト https://katsukinogami.co/

    92年製アーティスト。新潟県長岡市出身。モントリオールのコンコーディア大学Topological Media Labのメンバー。ベルリン芸術大学でオラファーエリアソンに師事。武蔵野美術大学卒業

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  • 堀部 和也 Kazuya Horibe

    公式サイト https://kazuya-horibe.netlify.app/en/

    大学院生。生物を対象とした理論的な研究を行なっている。現在は主に脳の形と機能の発達についての研究に従事している。

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  • 三宅 律子 Ritsuko Miyake

    公式サイト http://ritsukomiyake.web.fc2.com/

    ペンや墨汁など黒の点描ドローイングを手法に、白黒の反転や両極性により視点が変わる事で不快感と快感を行き来するような「感覚の逆転」が主なテーマ。女子美術大学卒業

助成対象活動名

アーティストとエンジニアのコラボレーションによる、AI時代における生命を問い直す現代アート作品の制作

日本科学未来館でのプロトタイプの展示/2018年3月_01
日本科学未来館でのプロトタイプの展示/2018年3月_02
都内制作場の様子_01
都内制作場の様子_02
球体の容器による実験の様子
スノードームミュージアム
映像・音響の実験の様子_01
映像・音響の実験の様子_02
展示した作品の様子

助成活動の成果

この度の助成金の採用により制作した作品は、2019年5月に海外(ポーランド)で行われた国際芸術祭「メディア・アート・ビエンナーレWRO」への参加と共に、国内での展示参加についても計画を進めていくものであったが、計画年度内での展示の調整が叶わなかったため、今回は以下の通り、国内での制作活動および海外の展覧会への参加活動についての報告とする。

【国内での制作活動】

本作品『たち仄こる』は、チーム結成のきっかけとなったイベントで、「人工生命」をテーマとしたアート・ハッカソンにおいて、日本科学未来館で展示を行ったプロトタイプをもとに、AI時代における生命を問い直す現代アート作品として、私達が求めるコンセプトや表現をより一層追及することを目的に実験・制作したものである。

この作品の面白さの一つは、その場で調達したホコリを使うことである。ホコリは主に、部屋の隅、家具や家電の隙間、廃墟などで見られるが、それは人の営みの痕跡であり、意図的に作り出されるものではなく、その構成は発生する場所にも由来し、様々な要素が混ざりあった灰色の存在である。 私達は、ホコリのもつ人やモノの朽ちた痕跡の中に、ある種の生命性や時間性を感じるのである。 本制作では、「いかにホコリが生きているかのように見せられるか?」が課題であったため、ホコリの動きを制御する静電気の発生機および徐電機について、どのように用いれば実現可能であるかを確かめるための実験に多くの時間を費やした。 主な活動としては、素材としての本物のホコリ集めから始まり、町のクリーニング屋さんから洗濯槽に溜まるホコリを調達した。また、周囲の人からも家庭で集めたホコリをもらうことで、ホコリを介した人と人との新しいコミュニケーションを感じることが出来た(私達はこれを「ホコリケーション」と呼んでいた)。さらに、実験を行う現場でもホコリを収集した。

  • クリーニング屋さん1
  • クリーニング屋さん2

次に、本活動が採択された2020年4月以降、私達の作品は、本物のホコリの他、静電気発生機・映像音響などの機材を使用するため、機器の保管および音漏れや安全などの条件に適した制作場を、約2ヶ月間レンタルした。アーティストとエンジニアのコラボレーションから成る5名のメンバーは、4月中旬まで、それぞれ都内チームと地方チームに別れて実験・制作を行い、その後、全員が合流して制作を続けた。実験の際は、ホコリの動き方を分析するため、硅砂・シリカゲル・砂などを入れて変化を確認した。室内の制作では大量のホコリを扱うため、換気とマスクが欠かせず、まるでパンデミック下での制作のようでもあった。

実験では、作品の完成イメージについても模索した。より効果的かつ全体的にホコリに静電気を近づけさせることや、作品を見る人がホコリの生命性を感じられるような見栄えにするため、ホコリを入れる容器の形状をプロトタイプの箱型ではなく、球体・ドーム型・円柱など様々な形状を用いたほか、アクリル・ガラス・塩ビなど様々な素材でも比較を行った。 その結果、支持台で支えた球体の中央に、ホコリを操る金属球をぶら下げて浮かせることで、地球とその核を思わせるような形状に決定した。素材はアクリルが最も適していた。また、金属球についても、ステンレス製・銅製・アルミ製などで比較した結果、静電気の帯電率にはステンレス球の鏡面が一番美しいと感じられたため採用した。 また、球体というイメージは、活動中に受けたインスピレーションから得た側面もあった。世田谷区内に設けた私達の制作場は、近くに「世田谷ものづくり学校」という廃校になった小学校の旧校舎を再生した施設があり、制作の合間の気分転換にメンバーで訪れた際に、施設内にあるスノードームミュージアムを見学した。たくさん陳列されたスノードームはまさに完成イメージの見た目であり、連日の制作で疲労していたチームの心が癒されたことで、ホコリの世界観のヒントとなった。

しかし、形状は決定したものの静電気を使った実験は困難が多く、湿度の管理、防錆剤の塗布、ステンレス球の配置、高出力のバンデグラフの導入などで、最終的には思い描いていたものにより近い結果が実現できた。 また、映像・音響・時間の制御については以下の通りとした。 ①映像:映像の処理やライトの変更、リアルタイムで音が発生する仕組みを実現した。 ②音響:音の要素は、イオナイザーで発生している電気信号をエレキギターのピックアップを活用し て取り込み、それを増幅させることとした。ホコリの動きに合わせて音が鳴ることで、より 自然と一体化したスペクタルとしての世界を生み出せた。 ③時間の制御:二つの周波数を変えたバンデグラフを、時間差で動くように制御し、一定時間を境に ホコリの動きの周期が変わる様にした。

【展覧会について】

2019年5月15日~7月23日の期間、ポーランドのヴロツワフで開催されたWROビエンナーレにおいて、同国の国立美術館の施設「Four Domes Pavilion」にて展示を行った。私達は渡航直前まで実験を重ねていたため、到着後も休む間もなく制作および設営を行った。

設営や展示に関する、5名の各感想は以下の通りである。
①三宅
設営では、狭い制作場と広い展示会場との空間・設備条件の違いに苦労した。もっと実際の条件に合わせた制作の進行が必要と感じた。展示では、キャプションに書かれたコンセプトだけでなく、自分自身が作品に対して思うことや、制作を通じて付け加えたコンセプトの方をより多く伝えるようにした。制作風景、クリーニン屋や展示会場でホコリを調達する様子を写真や動画で見せながら説明する事で、言葉が通じなくても視覚で紹介できたのが良かった。

②堀部
国内で準備をぎりぎりまでしてようやく形になった。これでうまく設営できると考えたが、現実は甘くなかった。現地では、電子部品屋、楽器屋、家電量販店から必要なものをかき集めてなんとか展示することができた。海外で設営を体験をできてよかったと同時に、国内での展示を実現するために、設営の手順はマニュアル化する必要を強く感じた。

③石川
海外展示ということで事前に現場の下見をすることができなかったため、その場で見え方を確認しつつ作品を完成させていくのはスリリングながらもライブ感があり楽しかった。技術的にネックだったのは、国内との設備環境の違いであった。例えば電源の電圧が違うことで、機材選定に気をつかう必要があった。変圧器を使用すると機材の挙動が若干変わるトラブルが特に厄介だった。

④斉藤
設営では、什器部分は今回時間がなくてできなかったことだが、今後は3Dモデルで確実に設計したり、ハードな素材でfixして制作してもいいだろうなと思った。しかし、状況に合わせてフレキシブルに変化させなければいけない部分も大きいのでバランスが難しいと思った。展示では、子供が興味を持ってくれたのが嬉しかった。子供が親にこれはなあに?と質問して、そこから静電気解説の会話が始まるのも微笑ましく感じた。特に何回も見に来てくれた男の子がいて、言葉が通じなくても作品で交流できた気がする。

⑤野上
設営では、メディアアートの設営に慣れていないメンバーが殆どだったにも関わらず、設営の段取りがぼんやりとしか決まってなかったので、事前準備がもっと必要だった。設営を滑りこみで終えるとWROビエンナーレのオープニングイベントが私たちの会場で始まり、その後は多くの客が作品を見に来てくれた。オープニングセレモニーが苦手で、その間に作品で待機していた際に来たお客さん数名とたくさん話ができてよかった。

  • 展示会場
  • 展示の様子

【その後の国内の活動】

2019年6月1日より開催された「第22回 文化庁メディア芸術祭」の会期中、連携プログラムとして、6月9日に開催されたトークイベントにゲスト登壇した。チーム結成から5月のポーランドの展示についてと、今後の国内での活動について対談した。

  • その後の国内の活動(トークイベントの様子)_01
  • その後の国内の活動(トークイベントの様子)_02

その後、秋に開催されたある地域のパブリック・イベントの参加の際に、本作品の展示を提案したものの、展示会場となったビルのオーナーより、本物のホコリを展示することへのビルのイメージへの影響を理由に断念することとなった。展示会場が美術館ではなく民間の場合には、「その場にあるホコリを集める」というコンセプトに抵抗感を示される場合があることが分かった。 2020年に入り、活動実施期間が終了する3月31日迄に国内での展示を実現したかったが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響に伴い、都内と地方の遠隔同士では集合しての活動が困難となった。 その為、3月以降はZoomによるオンライン会議を定期的に行い、昨年度の振り返りや今後の活動について話し合っている。

対象作品展示情報

Japan Media Arts Festival x Art Hack Day『BA / AA』ー Art Hack Day 以前と以降 ー

公式サイト https://jmaf-arthackday.peatix.com/

開催期間 2019年06月09日(日)
14:00 – 15:00
会場 日本科学未来館7階(イノベーションホール)
東京都江東区青海2丁目3−6[地図

18th Media Art Biennale WRO 2019

公式サイト http://wro2019.wrocenter.pl/en/

開催期間 2019年05月15日~7月23日
会場 Four Domes Pavilion
Wystawowa 1, 51-618 Wrocław, ポーランド[地図

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