公益財団法人 アイスタイル芸術文化振興財団

RESULT REPORT

2024年 第8回現代芸術助成大和田 俊

地球の活動と人間の活動を畳み込んだインスタレーションとしての《unearth》の「スコア」の制作とリサーチ

  • 大和田 俊 Shun Owada

    公式サイト https://shunowada.com/

    1985年栃木県生まれ。東京藝術大学音楽環境創造科卒業、同大学院先端芸術表現専攻修了。日本とベルギーを拠点に活動。音響と、生物としてのヒトの身体や知覚、環境との関わりに関心を持ちながら、電子音響作品やインスタレーションの制作を行なっている。最近のおもな展示やプロジェクトに「破裂 OK ひろがり」(車屋美術館、栃木、2020)、「地球をかたづける」(札幌文化芸術交流センター SCARTS、札幌、2021)「エナジー・イン・ルーラル 」(国際芸術センター青森、青森、2023)、「なめらかでないしぐさ 」(西尾市資料館、西尾市、2023)、「Onirisme Collectif #9 Hamraborg Festival」(Gerðarsafn Art Museum、Hamraborg、アイスランド、2023)「花蓮國際石雕藝術季 Stoneverse」 (花蓮市石彫美術館, 花蓮市, 台湾、2023)、「Anima in the fog」(WALL_alternative、東京、2024) など。

助成対象活動名

地球の活動と人間の活動を畳み込んだインスタレーションとしての《unearth》の「スコア」の制作とリサーチ

 
 
 
 
 

助成活動の成果

私は、自身のサウンドインスタレーションの制作を起点に、「地球の活動と人間の活動を畳み込んだインスタレーションとしての《unearth》の「スコア」の制作とリサーチ」というテーマで活動を行った。スコアという言葉は、元来古ノルド語で「岩の裂け目」を意味する言葉で、それがのちに木に刻まれた数を数えるための目印や、描かれた線という意味となることで、音楽における記譜という意味を持つようになったそうだ。2024年度は、地形と数、そしてスコアという概念の再考というテーマのもとで、リサーチと活動を行った。具体的な活動としては、 (1) 動物の数と土地・地形、また指示することに関する制作と発表 (2)裂け目を表現する素材としてのガラス玩具「ぽっぴん」のリサーチ (3)岡山とアントワープを繋いだ、ネットワーク上の音楽実践を行い、また、スコアや数に関する資料の収集などもおこなった。
(1)Animal Numbers (a hash piece)
グループ展「Anima in the fog」 (wall alternative,東京)で発表された小作品。
青森市にある八甲田山に自転車で登り、中腹にある高原でみた動物の数[脚注]を可能な限り数える。それを数日繰り返し、数えるたびにその数を、東京の展示会場にいるバーテンダーに電話で伝える。彼はその数をメモしてはならず、鑑賞者から動物の数を尋ねられたら、あくまで記憶に基づいて答えなければならない。作品の形態としては会場に配布されるハンドアウト上のテキストにのみ依拠している。作家自身に対する指示と、観客に対する指示を兼ね備えることを試みた。青森の高原から取り出され、曖昧に東京へと伝えられた動物の数は、高原という土地のひろがりから取り出される動物の数は、コンピュータから生成されるハッシュ値のようでもあり、記憶のなかで減衰する空気のようなものでもある。数、指示、土地を結びつけることを試みた作品。また、この作品に関するエッセイを「ユリイカ」2029年9月号(青土社)に寄稿した。
(2)「ぽっぴん」のリサーチ
私は、音と物質をつなぐものとして、泡とその破裂に興味を持ちつづけてきた。物体-その破裂-破裂音という直列的な関係を捉え直すことで、冒頭で述べたスコアや数という問題に繋がるのではないかと考えている。その関心のもとで、オランダ伝承とも、中国伝承とも言われるガラス製の玩具に関するリサーチをおこなった。息を吹き込むと、底面のごく薄いガラスが膜振動をすることで、独特の破裂音を生み出す。本プロジェクトで対象となっているunearthにおいても、その他の私の作品にとっても泡とその破裂、その数は重要なテーマになっている。ぽっぴんの構造を、自身の作品に取り込むことはできないかと考え、東京の風鈴工房(かつて、ぽっぴんの製造も行っていた)と秋田大学に併設される実験器具専門のガラス工房をリサーチした。秋田大学では東京の職人が作ったぽっぴんを見てもらい、より大きなサイズで作るためにどのように製造すればよいかなどのアドバイスをいただいた。
(3) 岡山とアントワープを繋いだ、ネットワーク上の音楽実践
岡山のライブハウス、「Pepperland」において、Pepperlandを主宰し、音楽・美術評論も手掛ける能勢伊勢雄、現代美術家の曽根裕、ギタリストの村岡充、ロンドンのペインター/サウンドアーティストであるndrew Pierre Hartら各氏とともに音楽の演奏を行った。演奏の実践だけではなく、特に能勢伊勢雄氏との対話を通じて、自身の関心を深めることができた。

これらの活動は、自身のこれまでの活動を捉え直し、新たな視座で捉え直すことで、今後の活動に繋げようとするものだと考えている。実際に現在もベルギーにおいて、同様の関心に基づいた制作を進めている。本助成の活動をベースとして、今後もこの主題に取り組んでいきたいと考えている。

対象作品展示情報

「Anima in the fog」

展示会サイトhttps://avex.jp/wall/exhibition/216/

開催期間 2024年7月5日(金) 〜 8月3日(土)
会場 WALL_alternative

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